Rural Free Delivery(RFD)
Rural Free Delivery (RFD)は、アメリカ合衆国における郵便配達サービスで、特に農村部の住民が無料で郵便物を受け取れるようにするために導入された制度です。このサービスは、都市部では既に行われていた郵便配達が、農村部にも普及していなかったことへの対応として、19世紀後半から20世紀初頭にかけて導入されました。RFDは、農村部の生活に大きな変革をもたらし、アメリカ全土でのインフラ整備、経済発展、情報の普及に貢献しました。
19世紀末、アメリカの都市部では郵便配達が整備され、住民は自宅で郵便物を受け取ることができました。しかし、農村部ではそのようなサービスはなく、住民は町の郵便局まで自ら出向いて郵便物を取りに行く必要がありました。これは特に、広大な土地に散在する農民にとって大きな不便となっていました。
RFDの提案は1890年代に始まりました。特にジョージア州出身の議員、トマス・E・ワトソンがこの制度の強力な推進者であり、彼の尽力により議会での議論が進展しました。1896年、アメリカ合衆国郵政省(現在のアメリカ合衆国郵便公社)は、ウェストバージニア州で初めての試験配達を行い、農村部でも郵便物が自宅まで配達されるようになりました。
初期の成功を受けて、RFDは急速に全国に拡大しました。アメリカの農村部に住む何百万もの人々が、自宅で手紙や新聞、雑誌、商品を受け取ることができるようになり、通信や情報のアクセスが劇的に改善されました。これにより、農村部の生活の質が向上し、都市部との情報格差が縮小されました。また、農民はカタログ販売を通じて商品を購入する機会を得たため、経済活動も活性化しました。
RFDは単なる郵便配達の改善に留まらず、アメリカ社会に多大な影響を与えました。
・経済の活性化: RFDによりカタログ販売が広まり、有名な「シアーズ・ローバック」や「モンゴメリー・ワード」などの通信販売業者が急成長しました。農民は都市部に行かずとも、必要な商品を注文できるようになりました。
・道路整備の促進: RFDの運用には、郵便配達員が通行可能な道路が必要だったため、農村部での道路インフラの整備が急務となり、各地で道路建設が進められました。
・政治と社会改革: RFDは農村部の住民が情報を迅速に受け取れるようにし、新聞や雑誌を通じて政治的・社会的な問題についての知識を深めることができました。これは、農民の政治的な意識向上にもつながり、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカの社会改革運動に影響を与えました。
RFDは成功を収め、アメリカ全土に広がりましたが、これを維持するためのコストも増大しました。そのため、郵便制度の効率化を図るべく、特定の地域では郵便局の統廃合が行われたり、新しい郵便配達方法が模索されたりしました。結果として、農村部の郵便配達はその後も進化を続け、現在の米国郵便公社のサービスに至っています。